研究課題/領域番号 |
20221008
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
塩見 春彦 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (60202107)
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キーワード | 転移因子 / RNAサイレンシング / RNAi / Argonaute / piRNA |
研究概要 |
「転移因子とRNAサイレンシング機構の間の'軍拡競争'が複雑な遺伝子発現制禦を可能にするゲノムの進化をもたらした」という仮説の検証を行い、本年度は以下のことを明らかにした。 1.ショウジョウバエ体細胞における転移因子抑制に関与するendo-siRNA-AGO2複合体の精製とそこに含まれるendo-siRNAの大規模配列解析を行い、これら小分子RNAが転移因子のみならず多くの活発に転写されている蛋白質コーディング遺伝子に由来していること、そして、それらの大半が遺伝子に対してアンチセンスであることを見いだした。これらの結果は、endo-siRNA-AGO2複合体が転移因子抑制のみならず、細胞の遺伝子の発現制御にも関与していることを示唆する。 2.ショウジョウバエ卵巣における転移因子抑制に関与するMaelの機能解析を進め、Maelが微小管形成中心(MTOC)構成因子と複合体を精製していることを見いだした。また、mael変異体ではMTOCが形成されないことがわかった。MTOCは卵形成過程における軸形成に必須である。これらの成果は転移因子抑制とMTOC形成(したがって、軸形成)が関連している可能性を示唆する。 以上のように、転移因子抑制機構が体細胞では遺伝子の発現制御にも密接に関与していること、そして、生殖細胞では軸形成に関与している可能性を示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
endo-siRNA-AGO2複合体が遺伝子の発現制御に関与するという発見は、「転移因子とRNAサイレンシング機構の間の'軍拡競争'が複雑な遺伝子発現制禦を可能にするゲノムの進化をもたらした」という仮説をまさに(少なくとも部分的に)証明する成果であり、転移因子抑制因子MaelとMTOCの関連を示した成果は、本仮説を支持発展させる重要な発見である。
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今後の研究の推進方策 |
「転移因子とRNAサイレンジング機構の間の'軍拡競争'が複雑な遺伝子発現制禦を可能にするゲノムの進化をもたらした」という仮説は、一方で、転移因子抑制と細胞遺伝子制御/細胞構造形成制御に同じ分子(たとえば、AGO2やMael)が関与していることを意味する。つまり、これら分子が関与する分子装置(または分子経路)は転移因子と他の遺伝子を識別し、それぞれに対応しなければならないはずである。今後は、この識別の仕組みを明らかにすることが重要な研究になる。このため、転移因子の認識(ゲノムDNA及び転写産物RNAレベル)に関与する因子の同定が重要である。今後、このような因子の探索を進める。
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