RNAサイレンシングによる転移因子の抑制機構を理解するため、ショウジョウバエをモデル動物として用い解析を進めた。特に生殖細胞特異的なRNAサイレンシング経路であるPiwi-piRNA経路の解析を進め、その結果、以下の成果を得た。 1. piRNA生合成には2つの経路(primary processingとping-pong cycle)が存在する。primary processing経路はDicerに依存しないが、この経路において直接piRNA前駆体のプロセッシングに関与する因子は不明であった。primary processing経路におけるpiRNA前駆体の切断酵素(Zucchini)を同定し、その構造を解明した。Zucchiniは2量体を形成し、その境界面に1つの活性中心が形成される。また、この活性中心の溝は2本鎖RNAには狭すぎるが、1本鎖RNAがはまり込むのには充分の幅がある。生化学的解析から、実際、Zucchiniが1本鎖特異的なエンドヌクレアーゼであることを示した。さらに、活性中心のアミノ酸変異によりこの1本鎖RNA切断活性が失わた。卵巣由来の培養細胞(OSC)を用い、RNAiにてZucchiniをノックダウンするとpiRNA前駆体の蓄積がみられ、一方、転移因子の発現が上昇した。Zucchiniがミトコンドリア膜状に局在し、piRNAの成熟の場であるYb bodyの形成に必須であることを示し、ミトコンドリアとpiRNA生合成との関連を見いだした。 2. piRNA経路による転移因子の抑制には転写(核内)及び転写後(細胞質)レベルの2種類の抑制機構が存在するが、Piwi-piRNA複合体は細胞質で形成され、その後、核に移行し、転写レベルで転移因子の抑制に働く。Piwiをノックダウンした際、Pol IIの転移因子領域への蓄積(pol II ChIP)が見られた。
|