本研究計画では、新しく発明してJST-CRESTで5年間開発してきた立体光電子顕微鏡(楕円メッシュ二次元分析器)を完成して、顕微鏡機能を使って試料の拡大像を観測し、微小領域だけからの高エネルギー分解能での二次元光電子分光を行ない、微小領域の電子状態と原子構造を立体的に詳しく観測することを目的としている。 完成した装置を放射光施設(SPring-8)に運び込み、放射光を励起光として光電子を用いた性能評価実験を行ってきた。光電子分光のピーク幅から全分解能を見積もり、0.2%という高いエネルギー分解能を確認することができた。試料の拡大像も25ミクロンの分解能で得ることができた。角度分布測定ジグを用いて、±50度までの角度分布がきれいに測定できることを確認した。 微小領域の結晶構造が解析できるという特徴を確認するため、太陽電池の省コスト化に貢献する多結晶Si基板を測定し、30ミクロン位のそれぞれの微結晶からの光電子回折パターンの測定に成功した。また、100ミクロン程度の微小試料である単層グラフェンからの光電子回折パターンの測定にも成功した。 電子状態を3次元的に詳しく解析できるという特徴を確認するため、グラファイトや表面超構造であるSi(111)5x2-Au構造からの3次元価電子帯の観測を行い、高エネルギー分解能の3次元バンド構造の取得に成功した。また、これらの強度分布には大きな非対称性が現れており、我々が提唱してきた「光電子構造因子」と「原子軌道からの角度分布」が測定できており、原子軌道や分子軌道まで解析できることが示された。 このように、これまで大きな単結晶試料でのみ観測できていた光電子回折パターンや3次元バンド構造を、微小領域から観測することに成功し、かつエネルギー分解能の高い測定ができたことから、本研究の目的はほぼ達成できたと考えられる。
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