研究課題
本計画では、顕生代5.5億年間におきた大量絶滅の中でも特に規模が大きかった2つの事件、すなわち2.5億年前の古生代末(P-T境界)事件と5.5億年前の原生代末(V-C境界)事件について、原因およびプロセスの解明を試みた。絶滅当時の汎地球規模環境変動の実態を解明するため、新たに欧州北部、中国南部、および日本において、野外調査およびボーリングによる新鮮な岩石試料採取を実施し、採取した岩石について様々な化学分析を行なった。とくに当初予定した南中国が以上な渇水に見舞われ野外での掘削計画が不可能となったため,その代わりに北欧のカンブリア系から始まる前期古生代の陸棚石灰岩中について掘削試料を入手した。また日本に産する世界でも稀な古海山頂部起源石灰岩からの掘削試料は貴重な情報源を提供した。その結果、以下の新知見が得られた。1)ペルム紀末の絶滅は2段階で起きたが,最初におきたG-L境界事件直前に、表層海水の無機炭素同位体比が異常な高い値をとる事件がグローバルであったことを世界で初めて実証した。2)また当時の海水が、顕生代でのSr同位体比最低値を取る期間が5百万年以上に及ぶことをつきとめた。3)G-L境界に特異な重金属濃集薄層を発見し、グローバル環境変化の原因として隕石衝突や異常火山噴火の可能性を示した。4)日本の陸棚相に巨大二枚貝群集の産出を初めて発見し、温暖な低緯度域を特徴づけるこの群集がG-L境界直前に絶滅したことを明らかにした。グローバル寒冷化が起きた可能性を示唆する。5)北欧の前期古生代の堆積岩中に挟在される凝灰岩層の中から抽出したジルコンのU-Pb年代を測定し、絶滅などの生物多様性変化との関連を探る新たな根拠を得た。これらの成果の一部は、すでに複数の学術論文として国際学術誌に投稿され,また国内外の学会で複数回口頭発表された。未発表分も順次公表準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究で得られた成果の約半分は、計画時に予想したものであり,順調に研究が進んだ結果と判断される。例えば,Isozaki et al. (2007)が日本からのデータから,G-L境界直前に超海洋表層の海水中の無機炭素同位体比が異常に高くなる現象(上村事件)をつきとめ、それが世界中に及んだ可能性を指摘したが,当時の地球の反対側に位置していた欧州クロアチアの同時代層からそれを実証するデータを得ることによって、グローバル事件であったことを実証した。さらに他地域からもその追証データが得られ、日本発の明確な貢献になった。同様にIsozaki & Aljinovic (2009)が考察したペルム紀巨大二枚貝の産出パタンと熱帯域での絶滅の関連を示す証拠が追加された。一方,予想外の発見として絶滅に関連した時期に海洋中央部で堆積した地層中に異常な重金属濃集層が発見されたことである。可能性として隕石衝突あるいはマントルプルーム起源の火山活動等,通常時に見られない特異な地質現象が起きたことを示唆しており、この分野の研究の方向を大きく変える可能性が見出された。
上述の日本発のいくつかの議論が世界各地の研究に適用されると予想される。その原因解明はまだ不十分なので,さらに研究が必要である。一方,新しく発見された特徴的な地層は、極めて薄くこれまでの調査で見過ごされていた可能性が高い。新しい視点でまだ検討されていない地層対象について、詳しく検討する必要がある。これらを含めて、より一般的な生物の絶滅/多様化パタンと原因の解明を進めて行きたい。
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