本研究の目的は、「電子線コンプトン散乱の時間分解反応顕微鏡」、すなわち化学反応を先導する形で起こる物質内電子の運動の変化ないしは過渡系電子波動関数が運動量空間において時間発展する様をスナップショット敵に観察する手法の開発である。具体的には、ポンプパルスレーザーにより単分子を励起した後、ポンプレーザーからの遅延時間の関数として緩和途中の過渡系に極短パルス電子線を照射し、電子線コンプトン散乱で生成した非弾性散乱電子・電離電子・解離イオンの3つの荷電粒子問のベクトル(エネルギーと角度)相関から過渡系の物質内電子運動量分布を得る。 上記の骨的に向けて、本研究計画初年度である今年度は、まず(1)電子用二次元検出器およびイオン用二次元検出器を購入し、その動作確認を行い、初期の性能を満足する結果を得た。次に、(2)高圧電源、(3)ドライポンプ、および(4)フィードバックステージを購入し、極短パルス電子線の開発に着手した。また、(5)オシロスコープを購入し、得られるパルス電子線の時間幅を測定するシステムの整備を行った。一方で、次年度に購入予定の真空チェンバーの設計を行うと共に、荷電粒子のトラジェクトリシミュレーションを駆使して電子分光器およびイオン分光器の設計を行った。 以上の今年度の研究成果を踏まえて、引き続き次年度および次次年度に試作ないしは開発を必要とする設備を整備し、次次年度末に電子線コンプトン散乱の時間分解反応顕微鏡装置をシステムとして完成させる予定である。
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