研究概要 |
生体関連化合物には,L-アミノ酸のように一方の鏡像異性体が圧倒的に多く存在するものが多く知られており,その起源およびプロセスは,長年の謎とされてきた。本研究では,鏡像体過剰率が向上する不斉自己触媒反応の研究を行った。重水素置換によるキラルなグリシン等のアミノ酸を不斉開始剤として用いる不斉自己触媒反応を行い,開始剤の立体と相関する絶対配置を持つピリミジルアルカノールが高い鏡像体過剰率で得られた。 また,クリプトキラルなアイソタクチックポリスチレンを不斉開始剤として用いる不斉自己触媒反応を成功させた。次にアキラルなテトラフェニルエチレンが形成するキラル結晶を不斉開始剤として用いることにも成功した。本結果は,アキラルな有機化合物が形成するキラル結晶が不斉の起源となり,高い鏡像体過剰率の有機化合物を与える化学プロセスのモデルとなるものである。さらに,炭素12と炭素13同位体置換によるキラルアルコールを不斉開始剤として用いる不斉自己触媒反応を行った。さらにアキラルなシトシン一水和物の結晶のエナンチオトピックな面から加熱脱水することにより,キラリティーが制御されたシトシンのキラル結晶が生成することを見出した。本結果は,極めてユニークなものである。また,螺旋構造を持ち、不斉誘導に寄与するHgS結晶基板の螺旋の巻き方を区別した上で、{10-10}劈開面の原子間力顕微鏡(AFM)像を観察した。不斉自己触媒反応の反応物、生成物であるピリミジン誘導体が基板と強く結びついて周期的な構造を作ることを見出した。右巻き、左巻きの有機分子は結晶の螺旋の向きを選んで表面に自己集合し、微結晶を作ることがわかった。
|