本研究では、フォトニック結晶特性を動的制御に基づく新しい学術分野の基礎を築くことを目指している。具体的な研究対象は、(A)光ナノ共振器のQ値の動的制御による光パルスの捕獲、保持および放出、(B)導波路モードの動的制御による光パルス制御であり、本年度はこれらの基本動作の実証を目指して研究を行った。 (A)Siスラブに形成した三角格子2次元フォトニック結晶をベースとし、高Q値ナノ共振器(Q値5万程度)とそれに平行する線欠陥導波路を形成し、さらに導波路の片端に反射鏡を導入した試料を用意した。ピコ秒パルスレーザ(波長〜1550nm)を導波路から共振器に導入しつつ、基本光から変換した波長775nmの制御光を照射することにより、共振器と反射鏡間の導波路にキャリアを生成して屈折率を変化させた。この実験により、導波路伝搬に伴う初期位相を適切に設定することで、制御光照射によるQ値の動的増加および減少の両方が可能であることを明らかにすることに成功した。 (B)(A)と同様のSiスラブに形成した三角格子2次元フォトニック結晶をベースとした一列埋めの線欠陥導波路を試料として用意した。この導波路に波長1550nmの信号光パルスを伝搬させ、その最中に波長775nmの制御光パルスを照射して、導波路の屈折率を動的に低下させた。そして、導波路を伝搬し終わった信号光のスペクトルを測定した。この実験により、制御光パルスと信号光パルスが導波路中で時間・空間的に重なる場合に制御光の強度に比例して信号光パルスの波長が短波長化するという結果が得られた。これにより、動的屈折率変化に伴う波長変換現象が確かに生じることを実証した。
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