本研究では、フォトニック結晶の特性を時間領域で動的制御することにより新しい学術分野の基礎を築くことを目指し、具体的な研究対象として、(A)光ナノ共振器のQ値の動的制御による光パルスの捕獲、保持および放出、(B)導波路モードの動的制御による光パルス制御の2点を設定している。 (A)に関しては、平成21年度までは、共振器に隣接する導波路を一本とした構造において、捕獲・放出現象に関する詳細な検討を行ってきたが、平成22年度は、捕獲と放出を別のポートとするため、共振器近傍に二本の導波路を導入した構造について検討を行った。この系において、共振器とそれぞれの導波路との結合の強さを独立に制御することで、4psのパルスを共振器に最大で320ps以上保持可能なこと、さらに、任意のタイミングで出力用導波路に放出可能なことを示唆する結果を得ることに成功した。将来的には、これをアレイ化して更なる多機能化をもたせることも可能となると期待できる。 (B)に関しては、平成21年度までに、導波路を光パルスが伝搬している最中に外部から制御光を照射して導波路の屈折率を変化させることにより、波長変換現象が生じることを実証した。平成22年度には、導波路近傍に、ナノ共振器を配置した系を形成し、動的波長変換動作を行うことにより、信号光と制御光のタイミングが一致するパルスのみを選択的に共振器に結合・放射させることが可能なことを示すことに成功した。これとあわせて、フォトニック結晶導波路のもつ分散関係を利用し、さらに新しい機能を生み出すことをも試みた。導波路の一部の屈折率を動的に変化すると、その部分が導波帯から禁制帯に変化するため、導波路中に瞬時に反射鏡を生成することが可能になるものと期待される。本研究では、この現象を利用して、フォトニック結晶導波路中に光パルスをそのまま閉じ込めることが可能になることを理論予測するとともに、その基礎実証、すなわち、動的反射鏡形成の実験的実証にも成功した。
|