研究課題/領域番号 |
20226002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 進 京都大学, 工学研究科, 教授 (10208358)
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研究分担者 |
浅野 卓 京都大学, 工学研究科, 准教授 (30332729)
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キーワード | フォトニック結晶 / 動的制御 / 光パルス停止 / 波長変換 / ダイナミクス |
研究概要 |
本研究では、フォトニック結晶の特性を時間領域で動的制御することにより、新しい光機能を創出するとともに、「フォトニック結晶ダイナミクス」とも呼ぶべき新しい学術分野の基礎を築くことを目指している。具体的には、A.光ナノ共振器のQ値の動的制御による光パルスの捕獲、保持および放出、B.導波路モードの動的制御による光パルス制御の2点を設定し研究を進めている。 A.に関しては、Siフォトニック結晶中に導入したナノ共振器とそれに隣接する一列埋めの線欠陥導波路、導波路の片端に反射鏡を導入した構造を利用し、共振器と反射鏡間の導波路にキャリアを生成して屈折率を変化させることで反射光の位相を制御することで、ナノ共振器と導波路の結合Q値を変化させるという方法を利用している。昨年度までに、4psのパルスを高効率で捕獲・保持し、さらに、任意のタイミングで出力用導波路に放出可能なことを示す結果を得ることに成功したが、同時に屈折率変化に用いているキャリアにより光吸収が生じるため、光の保持寿命が短くなることが明らかになった。そこで、本年度はキャリア寿命が10psと短いGaAs系材料を用い、(i)あらかじめQ値を高くしておき、(ii)光が共振器に結合する直前に、自由キャリアを利用してQ値を低下させる。このとき(ii)キャリア寿命が短いために、光が共振器に結合すると同時にキャリア減衰が生じQ値が再び上昇する結果、共振器に光が捕獲・保持されるというメカニズムを提案し、その実験的検証を行った。その結果、33psの保持寿命を得ることに成功した。これは、Siを用いて実験的に得られていた値と比較して2倍程度大きい値である。 B.に関しては、昨年度までに、フォトニック結晶導波路モードを動的に制御し、動的波長変換が可能であることを実証した。本年度は新たに、フォトニック結晶導波路中に瞬時に反射鏡を生成することで、光パルスを導波路中に捕獲することを目指した。フォトニック結晶導波路は、線欠陥部のみ伝搬可能な導波帯域と、その導波帯域よりも低周波数側に線欠陥部すらも伝搬できない禁制帯をもつ。ここで、導波路の一部の屈折率を動的に変化すると、その部分が導波帯から禁制帯に変化するため、導波路中に瞬時に反射鏡を生成することが可能となる。本年度は、制御光照射による自由キャリア生成を用いて、ピコ秒程度の非常に短い時間の間に、高速に反射鏡を生成可能となることを実験的に示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述のように、本研究では、フォトニック結晶の特性の動的制御により新たな光機能を創出することを目指し、具体的な研究対象として、前項目で述べたA.B.の2つを設定した。これまでに、A.についてはは、光ナノ共振器のQ値の時間領域での増大、減少の実証と、光パルスの高効率捕獲、任意のタイミングでの放出に成功している。また、B.についても、導波路のモードの動的変化により、伝搬中の光パルスの波長の動的変化、さらにパルスの進路の選択的制御を実証することに成功している。このように、予定より早く当初の研究計画を十分に満足する結果が得られており、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
A.に関しては、本年度、自由キャリア寿命が10ps程度と短いGaAs材料を用いた新たな捕獲・保持法を提案し、実証したが、来年度は、超高性能微細加工技術が可能なSi系の材料に対してこのような機能を実現するべく、フォトニック結晶面内にPIN構造を形成し、電気的なキャリア引き抜き効果を導入し、自由キャリアによる光吸収の影響を極力避けことが可能なデバイスの実現を目指していく。また、自由キャリアによる光吸収の影響を避けることが可能な新構造の探索も進めていく。Bに対しては、来年度、フォトニック結晶導波路モードの動的制御の体系的な検討を進めていく。併せて、より将来の展開、すなわちオンチップ・オンデマンドな光制御の実現を目指し、チップ上に、複数のナノ共振器や、導波路を集積し、これらの結合を動的に生成したり、切断したりする技術を構築し、新たな量子チップ形成のための基盤技術の構築をも目指していく。
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