本研究は、フォトニック結晶の特性を時間領域で動的制御することにより、新しい光機能を創出と、「フォトニック結晶ダイナミクス」とも呼ぶべき新学術分野の基礎の構築を目指して研究を行った。具体的には、A.光ナノ共振器のQ値の動的制御による光パルスの捕獲、保持、放出、B.導波路モードの動的制御による光パルス制御の2点を設定し研究を行った。 A.については、ナノ共振器と導波路、反射鏡をもつ構造を利用し、キャリア生成により生じる屈折率変化により反射光の位相を制御することで、ナノ共振器と導波路の結合Q値を制御する方法を利用している。昨年度までに当初計画を十分満足する成果を得ることが出来たが、一方屈折率変化に用いるキャリアにより光吸収が生じ、光の保持寿命が短くなることが明らかになった。昨年度、キャリア寿命の短い材料を用いた新たな捕獲・保持法を提案し、GaAsを用いて実証した。本年度、超高性能微細加工が可能なSiに対して本機能を実現するべく、フォトニック結晶中にPIN構造を形成し、電気的なキャリア引き抜きによりキャリア寿命を制御する検討を行った。その結果、ナノ共振器近傍にPIN構造を形成し、逆バイアスを印加することで、ナノ共振器におけるキャリア寿命を4μs から1μsまで短くできることを示した。 B.についても、昨年度までに当初計画を十分に満足する成果を得ることが出来ており、本年度は、将来の展開として、オンチップ・オンデマンドな光制御を目指し、チップ上に複数のナノ共振器や導波路を集積し、これらの結合の動的な生成・切断技術の構築を目指した。その結果、離れた複数の共振器を、導波路を介した結合状態の実現、その結合状態の動的な制御の実現など、新たな光制御の実現に成功した。 以上のように、フォトニック結晶の動的制御の体系化を進め総まとめを行ったとともに、当初の計画を超えて将来の展開を見据えた成果が得られた。
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