研究課題/領域番号 |
20226003
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
濱 広幸 東北大学, 電子光理学研究センター, 教授 (70198795)
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研究分担者 |
日出 富士雄 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (60292207)
田中 均 独立行政法人理化学研究所, XFEL研究開発部門, 部門長 (30393317)
高橋 俊晴 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (00273532)
鈴木 伸介 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 加速器部門, 主幹研究員 (00416380)
柏木 茂 東北大学, 電子光理学研究センター, 准教授 (60329133)
河合 正之 東北大学, 電子光理学研究センター, 准教授 (60374899)
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キーワード | テラヘルツ光 / コヒーレント放射 / 時間領域差分法 / 空間電荷効果 / 熱陰極高周波電子銃 / バンチ圧縮 / アルファ磁石 / アイソクロナスリング |
研究概要 |
前年度終了直前に発生した大地震によって、高周波増幅器に不具合が生じ、これの修復に相当時間がかかり、ビーム実験の開始が遅れた。電子銃の逆流電子現象によるカソードの過加熱の問題は当初予想以上に深刻であり、カソード表面の状態がかなり悪化していると考えられた。そのため、電子ビームの品質を丁寧に調べる必要が生じ、エネルギー分析路を設置して電子ビームの運動量分布測定を行なった。測定では空間電荷効果の影響を極力抑制するために、非常に低電流の運転を行なったが、僅か10keV/cのステップサイズで高分解能の精密なスペクトルが測定できた。電子ビーム生成シミュレーションも同時に行ない、電子ビームの特性評価を進めたが、起源不詳のバックグラウンドが存在し、特に高エネルギー側にテールを引いたスペクトルになっていることが分かった。これはシミュレーションではまったく現れない電子エネルギー分布であり大きな問題となった。様々な観点からこのバックグラウンドの発生起源を考えたが、通常ではあり得ない現象であるが、カソードの外側から引き出される電子は高エネルギーにシフトする事から、カソード材質が周辺のウェネルト電極に蒸着付着している可能性を検討した。そのような状況を仮定したシミュレーションでは実験データとかなり整合する結果を得た。この仮設が正しいとすると、電子ビームの品質は極めて悪くエミッタンスは数倍悪化している。 この問題は現在も明確に詳らかになっていないが、目標である電子ビームの縦方向位相空間制御の実証実験を引き続いて行なった。高周波のパラメータ(カソードセルと加速セルの電場強度および両者の間の位相差)を変化させてビームのエネルギースペクトルを測定した。位相空間を直接観測したわけではないが、エネルギー分布の変化の特徴とシミュレーション結果を比較した結果、ほぼ期待通りに位相空間が操作されていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究を行っている東北大学電子光理学研究センターの震災の影響はあまりに大きく、本研究で用いる実験装置の不具合の復旧に時間がかかったことが第一の理由である。センターの共同利用加速器および基板設備の復旧は大変な作業で、これらに中心的な役割を持つ共同研究者の研究遂行への時間配分が思うようにできなかった。 原因不明のカソードの不具合が発生し、これの解明に相当な時間が費やされたことも大きなロスであったが、なんとか当初目標の電子ビームの特性測定と、位相空間分布操作の実証実験を行なう事ができたことから、研究進展は結果的にやや遅れた状況に至った。
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今後の研究の推進方策 |
研究遂行上で現在の最も大きな障害は、震災によって電子光理学研究センター全体の加速器システムが変更になるため、放射線管理上の変更手続きが終了していない事である。そのため加速器設備の仕様を満たすための準備期間が必要であることから、ビーム加速実験が直ちに行なえない。しかしながら熱陰極高周波電子銃の特性をほぼ理解できたことから、加速管による速度圧縮法による短パルス生成、さらにはコヒーレントテラヘルツ放射の実証実験に向かう準備が整ったと考えている。従って、研究計画の遅れは否めないが、基本的に当初予定を大きく変えるまでの重大な事象ではないと考えている。 アイソクロナスビーム輸送路の設置については、電磁石等の主要物品はすでに入手してあり、真空ダクト等を揃えれば作業を開始できる。また最初にコヒーレント放射の観測実験を行なうアンジュレータはすでに準備されているので、これまでになかった不具合が加速器システムに発生しない限り、従来の研究遂行スケジュールに近づくことが可能だと考えている。
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