研究概要 |
今年度は,研究計画調書に記載したように,マクロな塑性変形と局所的な欠陥相互作用の関係について検討した.まず,純アルミニウムを用いて,種々の結晶粒サイズを持つ引張試験を実施した.環境温度に応じた粒径と強度の関係,いわゆるホールペッチ(H-P)則について,温度依存性と塑性ひずみ依存性に着目して整理した.これまでの研究に沿った転位論に基づく粒界近傍での転位との相互作用に関する簡便なモデルを提案し,局所的な力学挙動を表すモデルを通じたH-P則を解釈した.その結果,粒界から500nm程度の範囲における欠陥間相互作用が重要であること,外部から作用する応力場とともに粒界近傍に生じる内部応力場が,その範囲内に存在する射出源を活性化させるメカニズムの予想できることを示した.すなわち,粒界近傍の転位源から欠陥が生成したのちに粒界に会合し,堆積している転位間との結晶学的・力学的な整合性を選択したすべり系が作動することにより,粒界をまたぐマクロな塑性変形が達成されると仮説できる.この考えのもとで,粒界を介した転位のすべり挙動をより詳細に調査する必要があり,これまでの分子動力学シミュレーションを用いた解析,ナノインデンテーションを用いた押込み試験を整理した. 転位と粒界の結晶学的・力学的な整合性に基づき,その相互作用の強さを定性的に表す指標は,これまでに多くの研究実績がある.本研究では,外部応力場を考慮した相互作用指数として,新たにL値(L'値)と呼ばれるパラメータを定義した.この指数の検証として,粒界に垂直な一様応力場に対しては分子動力学シミュレーションの解析結果と,粒界に平行な一様応力場に対してはナノインデンテーションの実験結果を用いて検討した.これらの結果を説明し得る指数であることは結論づけられたが,負荷応力の違いやより詳細なすべり系の同定などについては今後検討する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画どおり,平成23年度と最終年度の24年度については,マクロな塑性変形と局所的な欠陥相互作用の検討を実施することができている.これは,平成20年度から22年度まで,その検討を実施するための根拠となる解析結果や実験結果が順調に得られたことに基づいている.したがって,これまでの達成度については,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
実験的アプローチとして,従来よりナノインデンテーションの手法を用いて,粒界近傍の塑性変形について調査してきた.研究実績の概要の欄にも記載したが,提案した欠陥相互作用を定性的に表す指数の妥当性の検証には,その境界条件,応力負荷条件を一致させる工夫が必要である.そのため,より単純化した微小ビラー型試験片の試作を現在実施している.一応負荷状態の実現には,自設計したフラット圧子の使用で解決をはかり,境界条件に影響を与えるピラーのエッヂだれ等の問題点が残っているが,加工装置としての集束イオンビーム(FIB)の装置条件を最適化する試行錯誤により克服する予定である.
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