本年度は、まず担持金属触媒によるセルロースの水素化分解反応を実施した。これまで触媒担体に用いてきたアルミナは熱水中で構造変化し、ソルビトール生成活性が低下する問題があった。そこで高い耐水性が期待できる炭素を担体に用いたところ、実際に触媒は高い安定性を示した。特に炭素担持白金触媒は優れた触媒であり、3回繰り返し反応に用いたところ、ソルビトール収率はそれぞれ49%、53%、53%と高い活性を示すとともに、繰り返し使用可能であった。そこで、炭素担持Pt触媒をヘミセルロースの水素化分解反応に適用したところ、アラビナンからほぼ定量的にアラビトールが合成できることが明らかになった。 次に、セルロースからソルビトールが生成する機構を速度論的に検討した。反応の経時変化から、まずセルロースの加水分解反応が進行し、生成したグルコースが水素化されてソルビトールになることを明らかにした。また、グルコースをモデル基質に用いた水素化反応の検討から、グルコースの水素化はラングミュア-ヒンシェルウッド機構により進行しているにとが示唆された。副生するマンニトールは、グルコースが異性化して生成するフルクトースの水素化で生成していることが分かった。 以上の知見をもとに、炭素担持金属触媒をセルロースの加水分解反応に応用した。アルミナ担持ルテニウム触媒を用いた場合、グルコースの収率は27%であり、また触媒は構造変化し再使用できなかった。しかし、炭素担持ルテニウム触媒を用いることにより、グルコースの収率は34%まで増加し、しかも本触媒を繰り返し用いても加水分解活性は維持された。本触媒の作用機構を検討したところ、炭素担体がセルロースのセロオリゴ糖への加水分解反応を促進し、ルテニウムはセロオリゴ糖をグルコースに加水分解することが示唆された。
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