過年度に続き,セルロース加水分解反応を検討した。これまで,アルカリ賦活活性炭が高活性を示すこと,セルロースと活性炭を混合ミルでグルコースとオリゴ糖の合成収率が90%に達することを見出している。本年度は,まず水の代わりに希塩酸中で反応を行うとオリゴ糖の加水分解が進行しグルコース収率が88%となることを見出した。ワンポット反応によるグルコース収率としては世界最高である。また,同様の触媒系でサトウキビの搾りかすの糖化を行うと,キシロースとグルコースをそれぞれ75%と85%の収率で与え,実バイオマスに適用可能であることを示した。 次に,セルロース加水分解の反応機構を検討した。触媒表面上には,カルボキシル基,ラクトン基およびフェノール基が存在するが,加熱処理により官能基を段階的に除去すると,対応して触媒活性が低下した。よって,触媒活性点は活性炭上の表面官能基と推察される。そこで,セロビオースをセルロースのモデル基質として各種芳香族化合物を活性炭のモデルとして反応を行い触媒活性を比較した。その結果,カルボキシル基を含む隣接官能基をもつサリチル酸やフタル酸が高い活性を示した。従って,触媒活性は芳香族化合物のpKaと隣接官能基の相乗効果の二つの因子によって支配されていることが分かった。重要なことは加水分解が弱酸性官能基で進行することであり,酵素型の反応機構が推定された。さらに,セロビオース加水分解の動力学的検討から,活性化エネルギーは同様であるが頻度因子が触媒により異なることから,触媒とセロビオースの相互作用が活性に大きな影響を与えていることが分かった。これに関連して,プロトンNMRではサリチル酸やフタル酸はセロビオースと非常に早いプロトン交換を起こしていることから,特異的な相互作用を確かめた。 以上のように,本研究ではセルロース分解の新規固体触媒の開発に成功し,反応機構を提案した。
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