研究概要 |
本研究では遊走細胞と神経細胞をモデルシステムとして、細胞極性の獲得・維持機構を制御するシグナル伝達機構の解明を目指す。 1. 遊走する細胞の極性形成機構の解析 我々は以前に、遊走細胞が極性を獲得する過程で、前方への微小管再配向にIQGAP1が重要な役割を果たすことを示した。本年は、急速凍結免疫エッチングレプリカ法を用いて細胞膜近傍のIQGAP1と細胞骨格の超微形態の観察を行った。その結果、IQGAP1は主にアクチンフィラメントの近傍にオリゴマーやダイマーを形成しながら局在し、さらに微小管とアクチンフィラメントの交差点や微小管の側壁に局在することが分かった。このことは、IQGAP1が微小管の配向を決定しているという我々の仮説と一致する。 また、RhoのエフェクターであるRho-キナーゼが、Rhoの不活性化因子のひとつであるp190RhoGAPをリン酸化してその活性を抑制することを示唆するデータを得た。遊走細胞において前後軸を維持するには後方でRhoの活性を高く保つことが必要と考えられるが、Rho-キナーゼによるp190RhoGAPの抑制はその機構のひとつと考えられる。 2. 神経細胞の極性形成機構解析 神経軸索/樹状突起への選択的輸送は神経細胞の極性形成・維持に重要であるが、そのメカニズムは不明の部分が多い。我々はCRMP-2がSlp1を介してRab27,Trk受容体と結合し、神経細胞において小胞上で共局在することを示した。CRMP-2,Slp1,キネシン-1の軽鎖の機能をRNNi法により抑制し、軸索におけるTrk受容体を含む小胞輸送を解析したところ、軸索近位方向へのTrk受容体の輸送に変化は無いが、軸索遠位方向へ輸送される小胞の数が減少していた。したがって、CRMP-2はTrk受容体を含む輸送小胞の軸索遠位方向への輸送を調節し、その結果軸索形成や極性形成を制御すると考えられる。
|