研究課題/領域番号 |
20227008
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
前田 雄一郎 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任教授 (10321811)
|
研究分担者 |
成田 哲博 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30360613)
|
キーワード | アクチン / アクチンフィラメント / アクチンのトレッドミリング / 筋収縮のカルシウム調節 / トロポニン / 遺伝性心疾患 / X線繊維回折 / 高分解能構造解析 |
研究概要 |
蛋白質・蛋白質間の相互作用としてのアクチンの会合動態の特徴:H22年度までにアクチン同士のあるいはアクチンと結合蛋白質の相互作用の研究で著しい成果があった。H23年度はこれらの意味を「蛋白質・蛋白質間の相互作用」という視点から考察し、総説・学会講演などの形で発表した。重合過程の考察:単量体 (Gアクチン) から重合体 (Fアクチン) への遷移に伴いアクチン分子は変形する (2009, Nature)。変形したF型には歪みのエネルギーが蓄えられる。この変形はアクチンのATP加水分解によって駆動されるのではなく、逆に変形によってATP加水分解が誘起される (2008, JBC)。変形は新規Gアクチンの重合端への衝突によって伝搬する。それゆえ、アクチン重合は自発的に開始されず、開始にはアクチンの変形を引起こす特別の蛋白質(Arp2/3複合体、forminなど)を必要とする。 トレッドミリングがB端方向へ進行する理由:トレッドミリングは以下の3要素メカニズムによって起きる。(1)G->F->G の1サイクルで1分子のATPが加水分解される。結合ヌクレオチドの加水分解 (ATP->ADP) はもっぱらFアクチン中で、ADP->ATPへの交換はもっぱらGアクチン中で起きる。(2)重合・脱重合速度ともB端で速く、P端で遅い (2011, EMBO J)。よってB端にはもっぱらATP-Fアクチンが存在し、P端はADP-Fアクチンで終わる。(3)ATP結合アクチンで終わる端(すなわちB端)で重合体はより安定であるため臨界濃度が低く、ADP結合アクチンで終わる端(P端)でより不安定で臨界濃度が高い。よって、両端の臨界濃度の中間のGアクチン濃度ではB端ではもっぱら伸張が、P端ではもっぱら短縮が起き、トレッドミリングはB端方向に進行する。進行方向は(2)端の構造の違いによって決まる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の考察は、アクチン重合体およびその会合特性の理解を進めたものであり、今後の研究を計画する上で指針となる新しい概念を提案することができ、国際的にも高く評価された。また「蛋白質・蛋白質の相互作用」という現代の自然認識の最先端の領域で我々の理解を豊かにした。 なお、本研究課題は、「アクチンフィラメントの構造と動態」の解明であり、上述の成果はこの理解を格段に深めた。アクチンは「筋収縮のカルシウム調節」と、「アクチンのトレッドミリング分子運動」という2つの細胞機能を担っているため、具体的な課題はどちらかの機能を対象とする。申請当初、前者の分野で研究をより大きく研究を進展可能と判断したため、そのような副題を付したが、実際には後者の分野で研究は大きく進展した。いずれにせよ、「アクチンフィラメントの構造と動態」の理解を深めることは2つの機能を理解する共通の土台となるものである。
|
今後の研究の推進方策 |
蛋白質・蛋白質相互作用の研究として、(1)複合体の構造を解明する研究、(2)複合体の集合動態の基礎となる分子内構造動態を解明する研究、(3)細胞内の複合体構造、会合動態を解明する研究を展開する。(1)ではアクチン重合体・コフィリン複合体、およびアクチン・トロポミオシン・トロポニン複合体の高分解能構造解析、(2)ではキャッピング蛋白質(CP)およびアクチン重合体の構造動態の解析、(3)ではlamellipodia 内の分岐アクチン線維網目構造のアクチン重合体の構造解析を行う。
|