本研究は、機能異常が疾病と密接に関係するABC蛋白質の作用機構および生理的役割を解明することを目的としている。ABCA1遺伝子の転写は、核内リセプターであるLXRとRXRのヘテロダイマーによって制御されている。細胞内に過剰なコレステロールが蓄積すると、ABCA1やABCG1の転写を活性化し、ABC蛋白質によって過剰なコレステロールは細胞外へ排出される。しかし、コレステロールは細胞にとって必須の構成成分であり、ABCA1の活性は分解などのさまざまなメカニズムで制御されている。本年度は核内受容体として知られるLXR/RXRヘテロダイマーが、ABCA1のC末端部分の2つのロイシン残基を介してABCA1と直接結合することを明らかにした。細胞内に過剰なコレステロールが存在しない状態では、細胞膜上のABCA1のC末端部分の2つのロイシン残基を介して、LXR/RXRヘテロダイマーがABCA1と直接結合している。この結合によって、ABCA1は何らかの構造変化を起こしATP結合活性を失い、ABCA1の2つの活性、apoA-I結合とコレステロール排出の両方が阻害される。さらにABCA1の分解が抑制され、不活性な状態のABCA1が細胞膜上に保持される。コレステロールが過剰蓄積すると、細胞内で生成したオキシステロールがLXRに結合し、LXR/RXRヘテロダイマーはABCA1から解離する。すると、ABCA1の活性がただちに回復し、過剰なコレステロールは細胞外へ排出される。つまり、LXRはこれまで考えられてきたように、核内に常に存在し、リガンドであるオキシステロールの核内濃度が上昇した時に働く転写因子としての役割だけでなく、リガンドが存在しないときには核外にも存在すること、さらに細胞膜上の蛋白質と直接相互作用することによって、翻訳後制御にも関わっていることが明らかになった。これは、これまでの常識を覆す発見である。
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