これまでにCaMKllbetaのアクチン結合部位をリン酸化状態を模したアスパラギン酸にするとアクチン結合能が著明に低下することを見いだしてきた。この生理学的意義を解明するため、同じ部位をアラニンにした変異体を海馬神経細胞に発現しLTPを測定したところ、LTPが著明に減弱していることが見いだされた。このリン酸化によってアクチン束化作用が抑制されることが知られているので、CaMKllによって束化が調節されることが、LTPに必要である可能性がある。それでは、束化にはいかなる意義が有るのであろうか。我々は束化によりアクチン調節蛋白がアクチンに結合することが妨げられており、LTP誘導に伴うCaMKllの活性化により、束化作用が解除することでアクチンの調節が起こるのではないかという仮説を立てた。そこでまずどのようなアクチン結合蛋白がLTP下でシナプスに移行するのかを検討するために、代表的なアクチン結合蛋白質であるコフィリン、プロフィリン、ドレブリン、コルタクチン、アクチニンの各GFP融合体を作成し、LTP誘導後のスパインへの移行経過を検討した。中でもスパイン内のコフィリン濃度がLTP誘導直後に、急激に上昇していることが判った。コフィリンは、高濃度ではアクチンの重合を促進する働きが有るため、コフィリンがLTPにおける構造可塑性に関与している可能性がある。今後、CaMKllによるアクチンの束化作用とコフィリンの役割についての研究を進めていく。 一方、樹上突起棘内での個々の分子の挙動をより詳細に検出する目的で、当研究所の山口和彦、上口裕之らと成長円錐のアクチンの挙動を解析するために用いられているsingle speckle microscopyを用いることを試みた。この実験は、成長円錐に比べ樹上突起棘が小さすぎるなどの問題でうまくいかなかった。
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