研究概要 |
本年度は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるTDP-43異常の臨床病理と実験病理について、以下の研究を行った。 I.長期生存ALS症例におけるTDP-43の異常 人工呼吸器を使用し、長期生存し、臨床的にtotally locked-in stateへ移行した孤発性ALS 1剖検例の組織学的並びに免疫組織化学的検討を行った。上位・下位運動ニューロン系の変性は高度で、多くの部位の非運動ニューロン系でも高度であった。本例では、運動ニューロン系を含む多くに部位にTDP-43陽性神経細胞胞体内封入体を認めた。それら個々の部位の変性の程度は強いが、TDP-43陽性神経細胞胞体内封入体と神経細胞脱落の分布は孤発性ALSのtype 2に相当した。つまり、本来type 2のTDP-43陽性神経細胞胞体内封入体の分布を示す症例は人工呼吸器の導入後に本例のような多系統高度神経変性とtotally locked-in stateへ移行しえるものと考えられた。 II. Machado-Joseph病(MJD)におけるTDP-43の異常発現 遺伝性神経疾患のポリグルタミン病のひとつであるMJD 10例を対象に脊髄・脳幹についてTDP-43の異常発現を免疫組織化学、生化学的に検討した。その結果、MJDの下位運動ニューロン胞体内のみに、選択的にTDP-43が蓄積することが判明した。生化学的には、孤発性ALSで認められる断片型TDP-43は検出されなかった。ALSにおける運動ニューロン変性・死におけるTDP-43の病的メカニズムを考察する上で重要な新知見と考えられた。 III.TDP-43遺伝子改変マウスの神経病理 孤発性ALSと同一の病理所見をもつ家族性ALSにて見いだされた変異型TDP-43、Q343R変異を導入したノックインマウスを作製した。12ヶ月齢において,マウスは明らかな神経症状は示さず、また病理学的検索にても,神経細胞脱落や,異常凝集体を認めなかった。この結果より,変異型TDP-43による神経症状発症のためには,変異に加え,他の要因が必要であると考えた。今後24ヶ月例の検索,また異常リン酸化の有無につき、更に検討を加える予定である。
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