我々はこれまでに、同じ左腕(もしくは右腕)で同じ運動を行う場合であっても、その運動学習を支える脳内過程(メモリ)が、右腕(左腕)の運動の有無によって部分的に切り替わることを示してきた。すなわち、我々の脳には、片腕運動用の右腕(左腕)運動メモリ、両腕運動用の右腕(左腕)運動メモリが別々に用意されていることになる。このような冗長な構造の存在意義、機能、場所を明らかにするため、以下の4つの研究目標を設定した。 1.ロボットアーム実験系を用いた運動学習メモリ乖離構造の機能的意義の解明 2.機能的脳イメージング法による運動学習メモリ乖離構造の脳内表象の解明 3.数学的モデリングによる、運動学習メモリ乖離構造のもとで運動学習が進行する動態の解明 4.運動学習メモリ乖離構造そのものが発達、トレーニングによって獲得されていく過程の解明極めて短期間の研究期間であったものの、以下の成果が得られた。 ・力覚デバイスPhantom2台を用いたリーチング運動実験系を構築した。これにより、例えば、左腕の動きに依存した力を右腕にかける等の複雑な運動課題を自在に実現できる。 ・この実験系を用いて、左腕の運動学習のメモリが、右腕運動の有無だけに依存するのではなく、右腕の運動方向に依存することを示唆する予備的な実験結果を得た。 ・運動学習メモリの脳内表象を調べるのに用いるため、超音波モータを応用したfMRI内で使用可能なマニピュランダムを設計した。 ・複数の運動メモリが互いに少しずつオーバーラップしており、それぞれのメモリの状態が運動エラーに応じて修正・更新されるという数学的なモデルを構築した。このモデルが片腕-両腕運動時の運動学習の動態をほぼ再現することを示した。
|