研究課題
本研究の目的は以下の3点である。1.物質循環指標である安定同位体比、餌情報源である脂肪酸組成、海洋汚染物質であるPOPsの回転率と濃縮係数を、海鳥の飼育実験によって組織ごとに明らかにして、異なる組織の測定値から異なる時間スケールでの物質取り込みを推定する方法を確立する。2.海鳥個体の移動軌跡と行動を装着型記録計で精密に測定し、行動の空間スケールを明らかにし、装着時と回収時に採取したその個体の異なる組織(血液、皮下脂肪、尾腺ワックス、羽など)の安定同位体比、脂肪酸組成とPOPs濃度やプロファイルを測定する。3.高次動物による採食強度およびその汚染度の地図をつかって、高次動物と生態系との相互作用の強度の高い場所、ホットスポットを定義する。21年度は、1.安定同位体比や脂肪酸組成、POPsの回転率や濃縮係数を求めるためウトウの飼育実験を実施し、十分な数の血液、羽毛、尾腺ワックス資料を得た。2.昨年に引き続き、オオミズナギドリの索餌範囲を装着型のGPS位置録装置であきらかにし、その個体の汚染度も同時に調べた。その結果、新潟県粟島で繁殖する個体は日本海北部でだけ索餌する場合と北海道太平洋沿岸で索餌する場合があること、岩手県タブの大島で繁殖する個体はすべて三陸沖か北海道太平洋沿岸で索餌すること、があきらかとなった。また、日本海北部で索餌した個体の尾腺ワックス中のPOPs濃度は、太平洋沿岸で索餌した個体よりも2倍程度高いことがわかった。そのため、従来予想された通り、日本海での汚染は太平洋側より進んでいると考えられた。さらに、今年度は、光記録からの位置推定により、オオミズナギドリは、パプアニューギニア周辺のアラフラ海とビスマーク海、及び南シナ海で越冬することを明らかにした。また、皮下脂肪と尾腺ワックスの脂肪酸組成とPOPsの分析を行った。その結果、ワックスで高塩素PCBsが高いという、今までとは多少異なる傾向が見られた。そのため皮下脂肪にも最近の汚染の傾向が反映される可能性がある。ワックスでも脂肪酸組成を得ることができ、それは皮下脂肪の組成とは異なっていた。回転率の違いや代謝作用を考慮して餌生物の推定に役立てる必要がある。日本鳥学会函館大会において、シンポジウム「バイオロギングによる鳥類研究」(オーガナイザー高橋晃周・依田憲)を開催し、本研究で利用する手法について議論を深めた。
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Journal of Ethology (In Press)
ページ: Doi 10. 1007/s10164-009-0187-3
PLos ONE
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