今年度は、開発したリアルタイムPCRによる、Neocalanus属カイアシ類の分類法を用いて、親潮域における3種の生活史を総合的に比較することによって、生活史戦略の進化を論じた。3種は、産卵時期、産卵水深、ノープリスス幼生期の成長パターン、表層への移動時期が異なっていた。N. cristatusはノープリウス卵黄蓄積量が多く、幼生は常に深層に分布し採集幼生期で表層へ移動、N. felmigeriは初期幼生期から表層へ移動し、産卵深度も浅い。これに対して最も優占するN. plumchrusは3期で深層において成長を停滞させ、何らかの表層生産に関係するシグナルで成長を再開し、表層へ移動する。以上のように、3種の生活史は亜成体で分かっていた生活史の差より、より顕著な差が初期幼生期にあることが、新しい手法を導入することにより解明でした。これらの成果は国内外での学会で発表し、高い評価を得ている。現在、学術論文化を行っている。これらリアルタイムPCRを用いた方法と並行して、形態分類に代わる分子手法として、可能性を模索した結果、Neocalanusで用いたmDNA COI領域は、他のカイアシ類でPCR成功率が低く(変異が激しいため)、広い分類群に使用可能な領域の探査を行った結果、核DNAの28S rDNA領域が、保存性の高い領域に挟まれ、種レベルの分解能を持った領域であることが日本近海の主要動物プランクトンを用いた結果で明らかになった。さらに、この領域にはある程度の変異が存在するD1/D2領域が含まれ、これらの領域が400-600bpであることから、超並列シークエンサーで分析できることから、準リアルタイムで、種同定や生物量測定ができる可能性が示された。当初想定した分子プローブによる染色と画像解析を組み合わせる方法とは別であるが、目的としていた迅速な計測には一定の道筋をつけることができた。
|