研究概要 |
本研究の目的は、沃素同位体比の変動を地球規模での環境動態指標として、我が国の太平洋側と日本海側の深部に存在する鹹水の形成とそこでの物質移動と濃集機構について検討することによって、プレートテクトニクス場の違いが、深部流体の流動性と物質循環に及ぼす影響について検討を加えることにある。22年度は、研究の最終年度であるため、3年間の成果の取りまとめを中心に行った。 3年間の最大の成果は、茂原地区の鹹水の起源について、地層中の間隙内に含まれる、間隙水中の希ガス濃度(^4He,Ne,Ar,Kr,Xe)、塩素同位体比(^<36>Cl/Cl)分布、δ^<37>Cl分布とその移流拡散解析、沃素同位体比(^<129>I/^<127>I)を基に、間隙水(鹹水)の流動性と年代測定結果と地層の年代測定結果を比較した。その結果、間隙水の流動性は極めて低く間隙水中での物質輸送は、主に拡散現象によって支配されており、沃素が他の場所から輸送され高濃度に濃縮された可能性は、はなはだ低いことを示唆する結果を得た。この結果から、近年提唱されてきた「沃素が、プレート運動によって運ばれ、太平洋側で北米・ユーラシア大陸プレートの下に潜り込む際に、プレートから搾りだれたメタンを含む冷湧水と共に、わが国太平洋側の地下深部に蓄積された」とする考え方を支持しない。したがって、茂原・宮崎の深部に存在する高濃度の沃素を含む鹹水は、有機物に富む海生堆積物が深海で、埋設され分解された有機物から間隙水中に放出され形成された「原位置生成説」を支持する結果を得た。この結果は、プレートテクトニクス場が異なりその形成年代が大きく異なる太平洋側(沈み込み帯)と日本海側(日本海の拡張に伴う圧縮場)で発見される鹹水中の沃素・塩素同位体比に大きな違いが見られないことからも、沃素が原位置で生成された可能性が高いことを示唆している。
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