研究概要 |
我々の先行研究成果より、細胞内グルタチオン(GSH)が大気中親電子物質である1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)と共有結合することで、1,2-NQによるタンパク質の親電子修飾を抑制している(事前処理)ことを見出している。今回は、GSHが1,2-NQにより修飾を受けた細胞内タンパク質の解除(事後処理)に係わるユニークな機能について検討した。1,2-NQをA549細胞に曝露すると、種々の細胞内タンパク質の親電子修飾が観察されたが、時間と共に1,2-NQによるタンパク質のS-アリール化は減少した。一方、GSHの枯渇剤であるBSOを処置すると、このような時間依存的なタンパク質のS-アリール化の減少は抑制され、逆に細胞内GSH濃度を上昇するNACを処置すると促進された。このことは、1,2-NQで修飾を受けた細胞内タンパク質のいくつかはGSH依存的に"S-トランスアリール化"する可能性を示唆している。BSO処置で1,2-NQによるS-アリール化が増加するタンパク質のプロテオミクス解析を行い、その一つが解糖系酵素GAPDHであることを同定した。ヒトGAPDHは、Cys152を介して1,2-NQによるS-アリール化による酵素活性が低下したが、反応系に生理的濃度のGSHを添加すると、低下したGAPDH活性は回復し、そのS-アリール化は殆ど解除された。本条件下において、反応上清中に親イオンピークm/z462.09を呈する未知物質が遊離し、このものが1,2-NQ-SGであることが明らかとなった。 以上より、1,2-NQのような親電子物質により化学修飾を受けたタンパク質の一部は、細胞内に高濃度に存在するGSHを利用してS-トランスアリール化反応を介してその親電子修飾を解除することが示唆された。
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