本研究では、酸化物半導体(Indium-Tin-Oxide: ITO)基板上で垂直配向させたπ共役系分子を化学結合によってITO表面上に固定化する。そして走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針をITO表面上の共役系分子と化学的に接合し、基板-π共役系分子-STM探針が一体となったナノ構造体を形成する。この構造体をひとつの物質系と捉え、ITO基板と分子あるいは分子とSTM探針を結ぶ化学結合種や共役系分子の分子長が、ナノ構造体の電気伝導性にどの様な影響を与えるかを明らかにすることを目標としている。初年度の平成20年度は、ITO基板上にπ共役系分子を化学的に固定化する手法について検討した。すなわち基板や電極表面への有機膜の固定化方法として、シランカップリング剤やチオールなどの自己組織化単分子膜(SAMs: self-assembled monolayers)が広く知られており、将来的には無機物と有機物を組み合わせたハイブリッドデバイス作製への応用が期待されている。しかしながら、現状ではSAMsを酸化物表面に固定化させる反応がシランカップリング反応に限定されているために使用できる有機物が極端に限定されている。そこで本研究ではヒドロキシル基とアルデヒド基との反応によってアセタール化合物が生成する点に着目し、芳香族アルデヒド化合物をアセタール化によってITO表面へ固定化する手法を検討した。その結果、金属酸化物表面のヒドロキシル基をトリメチルシリル化した後、芳香族アルデヒド化合物と反応させる2段階の反応によって芳香族化合物を金属酸化物表面に容易に固定化できることを見出した。
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