研究課題
基盤研究(A)
発生過程において、多分化能を持つ組織幹細胞が特定の形質のみを示す細胞へと分化する過程は、特定の遺伝子群の発現カスケードとして捉えられ、解析されてきた。しかし最近我々は、神経幹細胞の分化過程においてこのような「ローカルな」遺伝子座の制御に加えて、核ゲノム全体で起こる「グローバルな」クロマチン状態の変化が存在していることを示唆する結果を得た。すなわち、神経系前駆細胞がニューロン分化し成熟するときに、クロマチンが核全体で「ゆるく」なるという驚くべき結果である。今回観察された変化はたかだかゲノムの5%を占めるに過ぎない遺伝子コード領域の変化だけでは説明できない。さらに成熟に伴いクロマチン状態をゆるくする候補分子を得ており、そのノックダウンでニューロンの成熟が著しく阻害されるという予備的結果を得ている。従ってクロマチン状態がゆるくなることが、ニューロン成熟のトリガーになっている可能性が考えられた。また、ニューロン成熟に伴って「ゆるく」なるクロマチン領域を調べ、リピート配列のひとつmajor satelliteを含む事、またニューロン成熟に伴ってmajor satelliteの転写が上昇する事、を見いだした。Major satellite領域の転写はこれまで細胞周期に伴って起こる事が知られていたが、postmitoticな細胞におけるmajor satelliteの役割はこれまで知られていなかったので、ニューロン成熟との関わりは興味深い。
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