研究課題
本研究の目的は、ナノCAGE技術を用いて、神経細胞内のすべてのmRNA、非コードRNA、アクティブなプロモータを網羅的にリストアップすることにより、神経細胞のシステム生物学を理解することにある。T.Henschにより、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA(TSA)などの、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDAC)が、脳の可塑性を回復する非常に優れた薬剤であることが明らかとなった。これをうけ、これらの薬剤により可塑性が回復した脳を、DNase高感受性領域解析法により解析ところ、プロモータに繰り返し領域をもつ遺伝子座(論文印刷中)が主に活性化されることを見出した。そして、同時に行ったCAGE解析では、その遺伝子座からの非コードRNAの発現を確認した。この事実は、短期的には脳の可塑性回復をもたらす医薬品開発に、中期的にはこれら薬剤のメカニズム解明と脳疾患患者への応用に、そして長期的には、脳の可塑性を回復するメカニズムの解明へ向けて、重要な知見をもたらすものと期待されたため、1年目の戦略に若干の変更を加えることにした。TSA,VPAの投与により可塑性を誘導後、可塑性に関与する視皮質錐体神経を単離、RNAを抽出後、ナノCAGEライブラリーを作製し、その塩基配列決定を行う(2009年3月中には、塩基配列決定および最初のデータ解析を終了する予定である)。本研究のために、我々は、転写開始点を特定する新たな方法も開発した。Deep-RACE(RACEはrapid analysis cDNA endsの略)と呼ばれるこの方法は、CAGEにより同定された転写開始点が正しいかどうかを、迅速かつ大量に評価することができる(Bio Techniques 46:130-132にて発表済み)。一方で、CAGE技術を使った、嗅覚上皮のプロモトーム解析も行った(投稿準備中)。塩基配列決定のコスト低下により、次年度はより大量のサンプルの塩基配列が可能になる見込みで、次年度末までには、トランスクリプトームについてのより包括的な理解を得ることができると考えている。
すべて 2008
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BioTechniques Vol. 46
ページ: 130-132
POLS One Vol. 3
ページ: 1-10