研究概要 |
本年度は、糸状菌Aspergillus terreus中のメロテルペノイド生合成遺伝子クラスターに注目した。A.terreusは、前年度に生合成遺伝子クラスターの解析を行ったA.fumigatus由来のピリピロペンと基本炭素骨格が類似したテリトレムを生産する。そこで、A.terreusゲノム配列中にその生合成を担うと予想されるポリケタイド合成酵素(PKS)およびプレニル基転移酵素(PT)の両遺伝子を含む遺伝子クラスターを探索し、13遺伝子から成る約36kbのクラスターを見出した。しかしながら、本クラスター中のPKS遺伝子にはメチル基転移酵素(MT)ドメインやチオエステラーゼ(TE)ドメインが見られ、ピリピロペンの生合成に関与するPKSとは構造が大きく異なっていた。このことから、本クラスターはテリトレムではなくA.terreusの生産する別のメロテルペノイドであるテレトニンの生合成に関与するものと予想した。本クラスター中のPKS(trt4)遺伝子を、A.oryzae M-2-3株をホストとする異種糸状菌共発現系を用いて機能解析を行ったところ、6置換芳香環である2,4-dihydroxy-3,5,6-trimethylbenzoic acid(DTBA)を生成することが明らかとなった。本化合物は、テレトニンの生合成中間体であることが知られている。次いで、同じ発現系を用いてPT(trt2)遺伝子の機能解析を行った。PKSならびにPT両遺伝子を共発現し、DTBAにファルネシル基の付加したfarnesyl-DTBAが生成することを明らかにした。本反応は、6位炭素上に置換反応ではなく付加反応でファルネシル基を転移し、芳香環の崩れた化合物を与える大変興味深い反応である。これらの結果から、本遺伝子クラスターはテレトニン生合成に関与するものと結論した。
|