自然環境に対する人為インパクトの増大に伴って、多くの生態系で生物多様性が低下しつつある。本研究では、現存する個体が、数十、あるいは数百個体にまで減少した種が集中して分布し、生物保全が急務となっている生物多様性ホットスポットとして、小笠原諸島と阿蘇山系を調査サイトとして取り上げる。これらのサイトに残存する絶滅危惧植物のうち30種について、すべての個体を対象に遺伝子型を決定し、遺伝子型の包括的モニタリングに基づく新たな生物多様性保全のアプローチを試みる。生育地に残存する種内の全個体の遺伝子型を決定することを本研究ではユビキタスジェノタイピング(ubiquitous genotyping)と呼ぶ。 ユビキタスジェノタイピングを行う事によって、絶滅危惧種の種内に保持されている遺伝的多様性、遺伝構造、ジーンフロー、集団の遺伝的分化、交配様式と近交弱勢の有無等に関する評価を行う。また、ただ単一の種を対象とするにとどまらず、地史的履歴の異なる研究サイトに生育する、絶滅危惧状況、生活史戦略、進化的履歴の異なる多数の種を解析対象にする事により、生物多様性保全に関してより一般的な理解を得ることを目的とする。
|