移民のホスト社会への適応は、従来の同化主義め立場からは、文化的同化→経済的上昇→国籍(シティズンシップ)取得、という順序を踏んで進むものと考えられてきた。本研究はその代替として、経済的二ッチの獲得→非同化エスニック集団としてホスト社会主流集団と実力交渉→ホスト社会における非同化を前提としての地位(デニズンシップ)の制度化、というもうひとつのモデルを提示しようとするものである。この目的のために、初年度である2008年度には、予備的海外調査(四回)を行い、研究会(六回、二回はゲストを招いた)を重ね、図書等資料を収集した結果、以下のような暫定的見通しを得た。 1.非同化デニズンシップの先端事例として想定した、アメリカ合衆国におけるヒスパニックとアジア系、ヨーロラバのムスリム、日本へのニューカマーについては、相互間に細部にわたる類似と相違があり、非同化デニズンシップ・モデルの適合度はまちまちである。たとえばアメリカ公民権運動後に興隆した米・英・豪の多文化主義とはこのモデルは相性がいいが、フランスの共和主義・ライシテの原理とは相容れない部分が大きい。後者のケースの検討が是非とも必要である。 2.非同化デニズンシップの古典事例としたシナ海・インド洋における華僑・印僑・アラブ人のホスト社会適応と、参照事例とした北米アフリカン・アメリカンおよび在日韓国朝鮮人についても同じことがいえる。 3.日本へのニューカマーの例が示すように、輸送交通・情報通信技術の発達に伴い、移民の構成、ニッチ職種、生活環境は、21世紀に入ったこんにち、たとえばヨーロッパへのムスリム労働移民の流入が停まった1973〜4年以前とは根本的に別物になった。その前と後との不用意な比較に基づく立論は危険である。
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