本研究の目的は、国際関係論の重要分野である秩序変動についての研究をすすめつつ、マルチエージェントシミュレーション技法の可能性を追求することである。シミュレーションモデル分析と実証研究を具体的に関連づけながら、国際政治秩序変動の解明をめざしている。学術創成研究の成果をふまえ、また、ここで得た成果を社会科学全体でのマルチエージェントシミュレーションの可能性を広げるために活かし、シミュレータの機能の向上にもフィードバックさせていくことをねらいとしている。 本研究では連携研究者、研究協力者とともに(1)対外政策形成過程および外交交渉の動態、(2)国家形成・分裂をめぐる集団や組織の動態、(3)国家とそれ以外の主体からなる国際社会における秩序変動に焦点を当て、モデル分析と実証研究を進めている。(1)については、政策決定者の意思決定過程における利得構造のはたらきについてのモデル構築を完了した。(2)については、アフリカ諸国の国民統合と分離運動についての研究を書籍として発表し、研究成果をもとに現実の政策が政治状況にどう影響与えるのかについての分析に踏み込んだ。(3)については、社会ネットワークの形状と政策拡散の関係についておよび多様な国家間関係についてのモデル構築を完了した。 昨(2010)年末にはワークショップを開催し研究成果の一部を発表して、日本の関係研究者と討議をおこない有益な助言を得ることができた。 本研究で開発しているシミュレータそのものについても、新たな組み込み関数や出力様式が加わり、さらに主体間の相互作用の計算が格段に高速化され、主体間のより複雑なモデル構築が可能となった。
|