研究概要 |
本研究課題は,企業会計の重要課題である財務報告について,現行の財務報告の状況を精査することで引き継ぐべきものと改善すべきものを明らかにし,改善に際しての基礎理論と具体的な対応策を提示することを目的としていた.バリュー・ドライバーがインタンジブルズやCSRなどにシフトしつつあり,企業の伝統的な財務情報が有する企業価値説明能力が低下している.そこで,本研究では,財務報告を会計の最終章として位置付け,財務報告制度その他のインフラストラクチャーの整備を行うとともに,情報開示の多様化問題や過重負担問題について整理し,最終的に,財務報告をめぐる諸問題に対して企業会計が対応すべき方策を検討してきた.研究最終年度である平成22年度を,これまでの研究を踏まえ,研究成果をまとめて社会に還元するための期間と位置付け,日本語版および英語版の書籍として刊行するとともに,5回の公開シンポジウムを開催した(シンポジウムは全6回であり,第1回のみ平成21年度中に開催した.また,東日本大震災の影響により一部は平成23年度に繰り越した). 本研究課題の研究成果の特徴は以下の5点にまとめることができる.すなわち,(1)欧米のモノまねではない日本初財務報告モデルを提示したこと,(2)外部報告の視点からのみではなく内部報告の視点からも議論を展開したこと,(3)過去の実証研究のサーベイを踏まえて,非財務情報の有用性を示し,財務報告のあり方を考察したこと,(4)財務情報で測定された経済価値に,非財務情報を加味して企業価値を算定するコックピット・モデルを策定し,提示したこと,そして(5)財務報告をめぐる今後の研究の座標軸となる概念フレームワークを提示したこと,である.
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