本研究の主目的は、美術家の創作プロセスに関する心理学的検討を通じ、芸術創造の認知モデルを構築することであった。 美術創作プロセスの解明は、これまで科学的な検討がほとんど行われていなかった。そのため、その実証的な検討は、学術的にも教育的にも大きな意義を持っていると思われる。本研究プロジェクトでは、そのような目的の達成のために、絵画や立体、写真などのメディアを用いて創作活動を行っている現代美術家を対象に、インタビューや心理実験などの多様な手法を組み合わせる「マルチメソッド」を用いて、研究を行っている。20年度に引き続き、21年度においても、現代美術家を対象にインタビュー、美術創作プロセスのビデオ記録、眼球運動データの収集等を行った。この研究は現在も継続中であるため、まだ明確な結論は出ていないが、インタビューデータに関する現段階での分析では、若手の創作活動の変遷の仕方は、熟達者の創作活動の変遷の仕方と大枠では一致しているものの、熟達化プロセスの細部においては異なるパターンを取る可能性があることが示唆されている。この特徴は、現代美術の時代背景や美術系大学のカリキュラムの変化などに基づくコホートの効果があることを示唆している。また、創作活動中の眼球運動データは熟達した美術家を対象に行っており、現段階の分析では、描画のプロセスには質的に異なる3つのフェイズがあることが示唆されている。これらの成果は、今後更に詳細な分析を行い、研究論文として報告する予定である。
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