当該年度では、美術家の芸術創作の認知モデルを構築することを目的に、研究1として、美術家と美大生に作品のコンセプトや制作方法などについてたずねるポートフォリオ・インタビューを、研究2として、美術家と美大生に制作の意図や目的に関する質問紙調査を行った。その結果、若手の美術家は「制作活動に対する確信度」が、熟達した美術家よりも低いことが示された。またその反面、若手の美術家は「伝承への動機(美術の先達の考えを実現したいという気持ち)」や、「優越動機(他の美術家に負けたくないという気持ち)」が高いことが示された。 一方、研究3では、美術家を対象に、作品制作実験(「モチーフあり条件」と「モチーフなし条件」の2条件による絵画制作)を引き続き行った。この実験では、描画時の眼球運動や瞬目を捉え、描画中の視線の動きや注視時間などの測定を実施した。データが膨大であるため、まだ分析途中の部分もあるが、主な研究成果としては、熟達した美術家は、モチーフの有無にかかわらず、制作の初期の段階から、描いている場所(指)だけではなく、描いていない場所(指以外)を頻繁に見ていること、制作がある程度進むと、眼を細めて見るなどの特殊な活動が生起することが示され、モチーフを正確に描き写すデッサンとは異なることが示唆された。 そして、研究1-3の知見に基づき、美術専攻での創造的人材育成のための教育支援プログラムの提案を行う予定であったが、分析がまだ途中であることも影響し、教育プログラムの開発にはいたらかなった。しかし、埼玉大学における「絵画応用実技(毎週、学生にアイデアスケッチを提出させ、教員や学生に対してプレゼンテーションを行わせることで、作品の制作プランを形成することを目的とした授業)」に、我々は、研究協力者およびアドバイザーとして参与しており、今後も引き続き、芸術活動を支援する教育プログラムの開発と実践を継続する予定である。
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