研究概要 |
実験研究については,昨年度に引き続き,核スピン偏極イオンを検出するための狭帯域波長可変ナノ秒レーザーの開発・整備に多くの時間を費やした。我々が所有する波長可変ナノ秒色素レーザーは6GHzのバンド幅なので,狭帯域光源を種光として,それをパルス増幅することを試みている。種光としては100mWのチタンサファイアレーザーをこれまで用いてきたが,安定性に欠けるため,パルス増幅部分の調整が非常に厄介であった。そこで今年度は,ダイオードレーザーを種光にしてパルス増幅することを試みた。ダイオードレーザーはチタンサファイアレーザーよりもさらに狭帯域であり,スペクトル特性の適性は高いものの,出力がわずか10mWであり,これまで用いてきたチタンサファイアレーザーの10分の1ほどの出力しかない。パルス増幅によって核スピン偏極度の検出に十分な出力が得られるかどうかは当初不明であったが,試行錯誤の末,十分な出力を得ることに成功した。これにより,今後は狭帯域波長可変レーザーの調整にかかる手間が大幅に簡略化されると期待している。 理論研究については,これまで単発の超短レーザーパルスを用いた,過渡的スピン偏極を応用したスキームを考えてきたが,幅広い核種への応用には限界がある。そこで,本年度は,超短レーザーパルス列をターゲット原子に照射した場合に得られる核スピン偏極度について理論的に評価した。ターゲットにはミュオニウムを仮定した。ミュオニウムは水素原子様のエキゾチック原子であり,崩壊寿命は2.2μsとかなり短い。にもかかわらず,1ピコ秒の円偏光超短レーザーパルスを5ns間隔で照射することにより,>80%の偏極度を達成できることが分かった。
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