本研究は、宇宙から飛来するガンマ線を、角度分解能に優れたエマルション(原子核乾板)を用いて精細に観測することを目的としている。検出器内で捕らえたガンマ線イベントの到来方向を天球上にマップするには、それぞれのイベントの発生時刻を正しく知る必要がある。このため、エマルション中の飛跡の通過時刻を記録するタイムスタンプ部の開発が不可欠であった。 過去の研究で、飛跡の蓄積中にエマルションフィルムを相互に動かし飛跡の位置ズレ量を変化させることで、蓄積型検出器のエマルションを用いながら15分程度の精度の時間情報を得るシフターという手法を確立していた。今年度の研究で、これをさらに推し進めて複数のエマルションフィルムをアナログ時計の時針・分針・秒針のように、それぞれ異なる周期で動かし、相互の位置関係を再現することで、飛跡の通過時刻を秒単位の精度で再現できる事を実証した。この成果に基づき、ガンマ線望遠鏡のタイムスタンプ部として多段のシフターを採用することにした。 飛跡通過時刻を再現する精度は、多段シフターでフィルムの位置関係を制御する精度に直結する。多段シフターの設計・製作は、顕微鏡ステージや人工衛星搭載の望遠鏡など、特殊用途の精密光学機器開発で豊富な経験を持つ三鷹光器社の協力を得て行った。上空の低温・真空環境下においても、往復する周期運動の軌道および送りの精度10μm以内を確保しつつ、多段になっても軽量・コンパクトで気球への搭載に適した機構を考案し、プロトタイプ1号機を完成させ、次年度以降の気球に搭載しての上空での観測への見通しを立てる事ができた。
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