研究課題
本研究は、宇宙から飛来するガンマ線を、角度分解能に優れたエマルション(原子核乾板)を用いて精細に観測することを目的としている。検出器内で捕らえたガンマ線イベントの到来方向を天球上にマップするには、それぞれのイベントの発生時刻を正しく知る必要がある。このため、エマルション中の飛跡の通過時刻を記録するタイムスタンプ部の開発が不可欠であった。昨年度の研究で、飛跡の蓄積中に複数段のエマルションフィルムをアナログ時計の時針・分針・秒針のように、それぞれ異なる周期で動かし飛跡の位置ズレ量を変化させることで、蓄積型検出器のエマルションを用いながら秒単位の時間情報を得る多段シフターという手法を確立した。多段シフターの設計・製作は、顕微鏡ステーシや人工衛星搭載の望遠鏡など、特殊精密光学機器開発で豊富な経験を持つ三鷹光器社の協力を得て行い、プロトタイプ1号機を完成させた。今年度の研究においては、このプロトタイプ1号機を用いて、気球高度と同等の低温・真空環境下においても、往復する周期運動の軌道および送りの精度10μm以内が確保できるかの試験を実施した。真空環境下における乾燥にともなうエマルションフィルムの変形や低温環境下における駆動モーターの特性の変化などの問題点が発生したが、これらをひとつひとつ解決し、プロトタイプ1号機を気球に搭載しての上空での観測へ見通しを立てる事ができ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に気球フライトを申請中である。また、プロトタイプ1号機のテスト結果に基づき、観測感度向上のために面積を20倍に増加させつつ、駆動機構に改良を加えたプロトタイプ2号機の開発を進め、その機構部を完成させた。
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Nuclear Inst. and Methods in Phys.Research, A (印刷中)