素粒子物理学はLHC実験によって新たな段階を迎えている。そこではヒッグス粒子をはじめとする新粒子、新現象を直接観測することにより、TeVスケールに拓ける物理の最初の手掛かりを得ることができる。一方、フレーバー物理はこれまで素粒子の世界の枠組みを決める上で重要な役割を果たしてきた。K中間子のCPの破れの発見、レプトンフレーバーの破れの制限などは、クォークとレプトンの世界の世代構造に関する先駆的な実験事実であり、標準模型の基礎として取り入れられてきた。今後、TeVスケールの物理を解明するにあたりフレーバー物理からの情報は重要な知見を与えてくれることが期待される。この研究ではLHCの進展を踏まえつつ、クォークや荷電レプトンのフレーバー物理がTeV領域の新しい素粒子像を確立する上でどのような役割を果たすかを理論的な研究から明らかにし、さらにSuper KEKBなどの関連する実験計画の検討に役立てることを目的とする。 具体的にはLHC実験の進展を考慮しつつ、次のような項目について理論研究を進める。 (1)TeV領域で実現すると期待される標準模型を超える物理模型の候補に関して、可能なフレーバーシグナルを明らかにする。 (2)フレーバー物理に関する観測量がどのような理論的な不定性を持つかを検討し、それを小さくするために必要な計算を行う。 (3)フレーバー物理の側面から標準模型を超える物理模型を調べることが、統一模型の確立や宇宙論などへ、どのようなインパクトを与えるかを明らかにする。 (4)実験家と協力して、次世代フレーバー実験計画の物理的な意義を検討する。
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