本研究は、チリ・アタカマでの宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光分布の精密測定実験QUIET Phase Iを推進する。CMB偏光の精密測定は、二度のノーベル物理学賞(1978年、2006年)に輝くCMB温度とその揺らぎの測定を超え、宇宙の誕生と物理学の根本法則に関する人類の知識を飛躍的に高めると期待されている。 平成21年度は、前年度から継続してQバンド(40GHz)レシーバーシステムによる観測を6月まで成功裏に行った。その後、Wバンド(90GHz)のレシーバーシステムとの交換作業を行い、8月より新たにWバンドでの観測を開始した。平成22年3月まで順調にデータ取得を続行した。これにより、Qバンドで合計約4000時間、Wバンドで合計約3000時間のデータを得ることができた。本研究ではQバンドのデータ解析を中心に進めた。高エネルギー加速器研究機構は唯一の生データ保管所としてデータの質のモニター、データセレクション、キャリブレーションなどを主導した。特に空の厚みを変えながら観測を行うことにより、大気の影響を見積もったり、強いミリ波偏光源の観測データから偏光計の較正を行ったりした。その他、様々な系統誤差の見積もりを最終結果は伏せた形(ブラインド法)で行った。 さらに、将来POLARBEAR実験と統合解析を行うための準備に着手した。全天ではなく、一部の前景放射が小さい空を選んで観測する際の系統誤差についてのシミュレーションスタディを行った。その結果、従来の感度を10倍上回る感度で測定を行っても、前景放射の寄与を十分小さく抑えられる見通しを得た。
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