本研究は、チリ・アタカマでの宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光分布の精密測定実験QUIET Phase Iを推進することが目的である。CMB偏光の精密測定は、二度のノーベル物理学賞(1978年、2006年)に輝くCMB温度とその揺らぎの測定を超え、宇宙の誕生と物理学の根本法則に関する人類の知識を飛躍的に高めると期待されている。特に偏光Bモードの精査による原始重力波の発見が期待される。 平成22年度は、前年度から継続してWバンド(95GHz)レシーバーシステムによる観測を12月まで成功裏に行った。これにより、QバンドとWバンドで合計約10000時間をこえるデータを得ることができた。本研究ではQバンドのデータ解析を中心に進めた。高エネルギー加速器研究機構は唯一の生データ保管所としてデータの質のモニター、データセレクション、キャリブレーション、系統誤差の見積もりなどを主導した。また、高エネルギー物理学で確立されているブラインド法(最終結果は伏せた形で解析をおこなう)を導入した。その結果、Eモード偏光を6シグマ以上の有意度で観測し、Bモード探索より、原始重力波のパラメータrに関する制限r=0.35+1.06-0.87(68%CL)を得た。さらに、銀河のシンクロトロン放射に起因する前景放射の証拠を3シグマの有意度でとらえた。これらの解析結果を12月にThe Astrophysical Journalに投稿した。 また、新しい偏光計を試験するための試験システムの開発を成功裏に完成させ、その内容に関する論文を投稿した。 さらに、将来POLARBEAR実験と統合解析を行うための準備を進め、特に、観測する空の範囲を広げる必要があることをシミュレーションにより示した。
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