本研究課題では電子の持つ二つの自由度、電荷とスピンの揺らぎが絡み合うことによって生まれる新たな電子相を探索するごとを目的とする。対象とする物質は分子を基本単位とする分子性導体である。この物質群のもつ柔らかな格子を外部からの圧力によって制御する。これによりにフラストレーション、次元性、電子相関などを系統的に変化させ、そこに生じるであろう物質の新たな機能性を探索する。 研究初年度にあたる平成20年度はまず実験装置の整備に重点を置いた。柔らかな格子を最大限に活用するには対象物質に圧力を印加しそのときの物性の変化を測定する必要がある。従来の手動による油圧プレス機よりも高圧印加を可能にし、加えて常圧から目的圧までスムーズにかつ任意の速さで印加できるようにするため自動加圧システムを導入した。常圧下および加圧下において核磁気共鳴測定や輸送現象測定時に物性量の磁場角度依存性を測定できるように角度回転を可能とする試料回転ホルダーを設計製作した これらの装置を用いて、擬二次元三角格子ドープ系であるκ-(BEDT-TTF)4Hg2.89Cl8の13CNMR測定を開始した。その結果、常圧下でのスピンー格子緩和率に観測された低温域での異常なスピン揺らぎの増大はわずかな圧力で抑制されることがわかった。また、スピンー格子緩和率の絶対値は圧力印加によっても大きく、この物質が圧力下においても強相関電子系であることがわかった。
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