研究課題
本研究課題ではスピン揺らぎと電荷揺らぎの絡みあいによってもたらされる非自明な電子相の開拓を目指して、中性-イオン性転移系とモット転移系の高圧物性を研究してきた。前者については、本年度、分子修飾や加圧によって中性安定相から量子臨界点を経て有限温度でイオン性に転移する(DMTTF-CA)の加圧下NQR実験を行った結果、加圧下では相転移が1次であることを見出した。この振る舞いは、量子臨界点が存在せず、加圧によって電荷移動と構造転移が分離してはじめて連続転移的になるTTF-CAとは異なる。これらの多様性を総合的に検討した結果、転移には、電荷移動とスピンパイエルス転移で駆動されるものと格子変位(分子2量体化)に起源を持つものがあり、圧力等の環境に応じて、2つの機構の消長が起こるというモデルを提案するに至った。後者については、フラストレーションによって大きな量子スピン揺らぎを有し、スピン液体状態が実現していると期待される三角格子系κ-(ET)_2Cu_2(CN)_3のモット転移を精密な圧力制御が可能なヘリウムガス圧を用いて調べた結果、転移に伴いモットギャップが連続的に閉じることが分かった。これまでに得た異方性の異なる三角格子系についての結果を総括すると、フラストレーションが弱い正方格子に近い系は、反強磁性体から高いTcを有する超伝導相に強い1次のモット転移を示し、転移近傍で擬ギャップが現れる。それに対し、三角格子に近づくと、モット相としてスピン液体相が現れ、モット転移は弱い転移となり超伝導のTcも低く、擬ギャップは消失する。すなわち、幾何学的フラストレーションが、スピン揺らぎと電荷揺らぎの絡み合いを変化させ、モット転移と超伝導の発現に深く関与していることが明らかになった。
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