立ち上げを行ってきた平成19年度末に納入されたSPring-8 BL02B1の単結晶用新型回折装置は、様々な基本性能のチェック及び調整を経て十分な測定性能を有することが明らかとなった。我々は、精密解析に必要な逆格子空間内の分解能がどの程度まで確保できるかを詳細に調べ10ミクロン角程度の合金系単結晶であれば0.2Aの超高分解能測定が可能であることを確認した。このような微小結晶のハンドリングを行うためには、従来の光学顕微鏡だけでは対応が困難であるため、デジタルマイクロスコープを導入して単結晶試料の選別及び測定用試料ホルダーへの固定、更に結晶外形の観測などを行えるようにした。また、昨年度から引き続き、この回折計を用いた軌道秩序系の遷移金属酸化物、超伝導体等の測定を行った。高エネルギーのX線による高統計精度の測定は、2次元測定装置を用いているために生じる回折線の重なり、多重散乱などのいくつかの単結晶回折実験特有な問題点を有するため、精密解析めためのデータ処理ソフトウェアの開発を行い、これらの問題を回避/補正することに成功した。このような解析を適用することにより、まずは典型的な分子性導体の分子軌道の電子密度分布の回折実験測定を開始し、閉殻イオンの電子分布状態について興味深い電子状態の観察に成功した。
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