ミオシン、あるいはキネシンなどの分子モーターは、負荷の強弱に柔軟に応答して常温で効率よく動作する、人間のつくるエンジンを超えた能力を持つ優れたモーターである。本研究では、蛋白質が大きく柔らかく動く姿を捉える新しい粗視化モデル、およびアロステリック変形の基礎理論を展開して、強い熱揺らぎに曝されているにもかかわらず高機能を発揮する、分子モーターの物理的原理を明らかにする。生理的に重要なミリ秒以上にわたる過程に焦点をあてた計算機シミュレーションを実行し、分子モーターの動作を説明する機能ファネル仮説を提唱して、これを批判的に検証する。 20年度は、(1)アロステリック変形理論の開発を開始した。蛋白質フォールディングの理論を拡張して、複数構造を自由エネルギー極小に持つアロステリック変形の統計力学的モデルを開発し、アロステリック変形に伴う大きな揺らぎの機構を解明した。(2)アクチンフィラメント上のミオシンII、およびミオシンVIの運動シミュレーションを行った。粗視化モデルにより、アクチンフィラメント上のミオシンIIの運動シミュレーションを系統的、大規模に進め、ミオシンの運動とともに、構造ゆらぎ、アクチン-ミオシン間の相互作用、レバーアーム位置の変化をモニターして、その相関を明らかにし、運動の機構を示す計算結果を得た。
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