ミオシン、あるいはキネシンなどの分子モーターは、負荷の強弱に柔軟に応答して常温で効率よく動作する、人間のつくるエンジンを超えた能力を持つ優れたモーターである。本研究では、蛋白質が大きく柔らかく動く姿を捉える新しい粗視化モデル、およびアロステリック変形の基礎理論を展開して、強い熱揺らぎに曝されているにもかかわらず高機能を発揮する、分子モーターの物理的原理を明らかにする。生理的に重要なミリ秒以上にわたる過程に焦点をあてた計算機シミュレーションを実行し、分子モーターの動作を説明する機能ファネル仮説を提唱して、これを批判的に検証する。 21年度は (1)アロステリック転移の前後の2つの構造を参照する、新しい計算科学的モデルを開発し、アデニレートキナーゼと呼ばれる蛋白質に適用して、open構造からclosed構造への転移をエントロピーとエネルギーのバランスの観点から合理的に説明することに成功した。 (2)アクトミオシン系についてのシミュレーションを行った結果、電荷を変える突然変異やイオン濃度の変化によってミオシンの運動が大きく異なるなど、アクチンとミオシンの間の静電相互作用がミオシンの運動の一方向性を生み出すために、非常に重要であることを明らかにすることができ、長年の論争が続いたアクトミオシンの動作機構の問題解決に向けて、貢献することができた。レバーアーム変形やアクチンーミオシン間相互作用領域の構造変化の影響を分析した。
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