研究概要 |
ミオシン,あるいはキネシンなどの分子モーターは,負荷の強弱に柔軟に応答して常温で効率よく動作する,人間のつくるエンジンを超えた能力を持つ優れたモーターである。本研究では,蛋白質が大きく柔らかく動く姿を捉える新しい粗視化モデル、およびアロステリック変形の基礎理論を展開して,強い熱揺らぎに曝されているにもかかわらず高機能を発揮する,分子モーターの物理的原理を明らかにする。生理的に重要なミリ秒以上にわたる過程に焦点をあてた計算機シミュレーションを実行し,分子モーターの動作を説明する機能ファネル仮説を提唱して,これを批判的に検証することを目的とした。 22年度は,アクトミオシンの構造変化と滑り運動を記述する自由エネルギーランドスケープの計算を行い,レバーアーム運動と滑り運動が協調して働く可能性について議論した。さらに,モーターの構造変形を計算する計算科学的方法,および統計力学的方法を開発し,構造変形に伴う大きな特徴的揺らぎが重要であることを示して,分子モーターの基礎理論を展開した。とくにNMR,FRETなどの実験結果を定量的に説明する計算モデルの開発に成功し,開発した理論の有効性を確認した。また,構造変形を理論的に予測するための計算手法を開発し,蛋白質立体構造予測への新しい方法を開拓した。さらに,蛋白質相互作用においてATPのエネルギーを利用しながら構造変化サイクルが生じる現象について理論的考察を行い,分子モーターの背景にある統計物理的問題を議論した。
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