研究概要 |
ミオシンなどの分子モーターは,負荷の強弱に柔軟に応答して常温で効率よく動作する,人間のつくるエンジンを超えた能力を持つ優れたモーターである。本研究では,蛋白質が大きく柔らかく動く姿を捉える新しい粗視化モデル、およびアロステリック変形の基礎理論を展開して,強い熱揺らぎに曝されでいるにもかかわらず高機能を発揮する,分子モーターの物理的原理を明らかにする。生理的に重要なミリ秒以上にわたる過程に焦点をあてた計算機シミュレーションを実行し,分子モーターの動作を説明する機能ファネル仮説を提唱して,これを批判的に検証することを目的とした。23年度は,アクトミオシンの構造変化と滑り運動を記述する自由エネルギーランドスケープの計算を行い,レバーアーム運動と滑り運動が協調して働く機構についての解析を行い,分子モーターの機構に関する論争の解決に向けて貢献した。さらに,モーターの構造変形を計算する計算科学的方法の開発を進展させ,構造変形に伴う大きな特徴的揺らぎが重要であることを示して,分子モーターの基礎理論を展開した。とりわけ,リガンド分子の結合解離と蛋白質の構造変化を統一的に計算できる手法の開発を前進させた。また,構造変形を理論的に予測するための計算手法を開発し,既知の蛋白質構造情報を効果的に利用する新しい蛋白質立体構造予測の方法を開拓した。さらに,機能ファネル理論の考え方をDNAと蛋白質の複合体に適用し,染色体の構造変化を解析する計算科学的方法を展開した。
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