研究概要 |
発生が予測される巨大地震(大地震)の震源域において、歪蓄積過程を明らかにすることは、地震の発生予測のみならず、地震現象そのものを理解する上古重要である。しかしながら、プレート境界における歪は地震のみによって解放されているわけではなく、地震時すべりのプレート間の累積相対変位に対する割合(地震カップリング)は、たとえば三陸沖日本海溝ではわずか30%程度でしかない。残りは大地震の後の余効変動や地震波を放射しない超低速の間欠すべり,あるいは定常的な安定すべりによって解放されていると考えられているが、こうした非地震性のすべりのうち、実際に観測により検知されたものはごくわずかであった。本研究では,沈み込み帯前弧側の陸側斜面の分岐断層周辺において,地震学的および測地学的観測を行い,様々な時定数のゆっくり地震の観測および地震に伴う流体の移動の観測を実施し、ゆっくり地震の発生過程を明らかにすることを目的とする。H20年度は、(1) 南海トラフにおいて海底音響測距および圧力観測に基づく短基線の海底測地変動観測の試験観測を実施し、実際に分岐断層への機器の設置を行った。また(2) 日本海溝において、湧水を伴う分岐断層を反射法探査の再解析および有人潜水調査により発見し、その断層周辺に海底圧力計、海底短周期地震計、および海底長周期地震計を設置した。また、日本海溝においてGPSと海底音響測距に基づく長基線の海底地殻変動の観測を実施した。H20年度の成果としては、(1) 短基線の海底地殻変動観測について分岐断層を挟んだ観測に対して技術開発に成功し、分岐断層を挟んだ観測への展望が開けたことにある。また、(2) 日本海溝においてこれまで存在の知られていなかった湧水を伴う分岐断層が確認されたことは、日本海溝においても南海トラフと同様にゆっくり地震が存在する可能性を示唆するものである。`
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