常温で金属の性質を示す有機電荷移動錯体であるκ・(BEDT-TTF)2「Cu(CN)2」Brは低温で超伝導特性を示すのに対し、その重水素化物は常温では金属、そして低温にするにしたがって金属と絶縁体の混合物になり、温度の低下と共に抵抗値が単調に大きくなる事が知られている。この重水素化物の電気伝導度が光照射により、そして電場印加により、さらには光と電場の同時作用によりどのような変化を示すかを調べた。印加する電圧を低く抑えてパルスレーザーにより可視光を照射し、それと同期した光電流の時間変化を独自に開発した装置を用いて精密に測定することにより電気伝導度への光励起効果を調べた。その結果、光励起により電気伝導度が大きくなること、この効果は熱効果とは異なる光励起特有の効果であることを明らかにすると共に、光電流の大きさには顕著な温度依存性が存在することを明らかにした。また、抵抗値の大きな低温にて印加する電圧を大きくしていくと、ある閾値以上の電圧では、急激に電流が流れ、抵抗値が急激に減少することを見つけた。すなわち有機化合物における絶縁体一金属間の遷移を電場により誘起できることを示すことができた。この転移が起こった後に電圧を下げていくと元の低伝導状態に戻るが、金属になるために必要な電圧と、金属から絶縁体に戻る時の電圧は異なり、電圧-電流特性にいわゆるヒステリシスが観測されることを示した。また、絶縁体一金属間の相転移が起こらない程度の電圧を加えた上で、光を照射すると、電場と光の相乗効果として絶縁体-金属間の転移が起こることを見つけた。また典型的なイオン性固体であるヨウ化銀のイオン伝導度が光照射により増加すること、しかも非常に低い液体窒素温度ではその光照射効果は3桁の電気伝導度の変化を誘起することを見つけた。
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