研究概要 |
有機デバイスの電気的性質を有機半導体の電子構造から解明することは歴史的な要望であったが,本年度の研究によって,以下に示すように飛躍的な成果を得た。 (1)光励起電荷注入(光伝導)を利用して電気抵抗の大きなルブレン単結晶の角度分解紫外光電子分光測定を実現し,ホールバンドの分散を実測して,ホールの有効質量,トランスファー積分値を求め,さらにホールの散乱長を推定した。これによってルブレンのb軸方向の伝導がコヒーレントバンド伝導による可能性が大きいことを電子論的に示すことが出来た。尚,ルブレンの低温での高分解能紫外光電子分光により,伝導ホール-分子振動結合の精密測定にも成功した。 (2)超高感度非破壊紫外光電子分光法によってCuフタロシアニン(膜厚7nm)/Au(111)での埋もれた界面を直接測定することに成功した。また,1気圧の窒素ガスにこのCuフタロシアニン薄膜を暴露することにより,膜への窒素分子の進入(拡散)によって分子パッキング構造に乱れが導入されフェルミ準位の位置が変化すること,またアニールによって回復することが見出された。即ち,分子パッキングの乱れがバンドギャップ内に低密度のギャップ状態を発生させ,これがフェルミ準位の位置を決定する主原因であることが見出された。尚,この効果は酸素や水分子への暴露効果よりも大きいことも見出している。 (3)室温ではナフタレン分子はカーボンナノチューブ(CNT)表面に吸着しないが,CNTの間には挟み込まれて存在する。この系においてフェルミ準位直下に新たな電子状態が出現することを見出した。すなわち彎曲したグラフェンシートとナフタレンのπ電子間には強い相互作用が存在していることが見出された。 (4)フッ素化ペンタセン/Ag(111)界面での同分子の幾何学的構造をX線定在波励起光電子分光法によって決定し,その電子状態を高分解能紫外光電子分光法によって詳細に研究した。この結果,分子配向とHOMOバンドとの系統的な相関が見出された。 (5)以上の他,グラファイト表面上で電気双極子を持つフタロシアニンの斥力相互作用を克服して表面垂直向きの電気双極子の一次元配列構造の作成に成功した。また一次元鎖間の間隔の制御に成功した。
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